三丘同窓会

世界初の木造人工衛星「LignoSat」完成!/土井隆雄さん(高25回)らが開発

 宇宙飛行士・土井隆雄さん(高25回・京都大学大学院特定教授)ら京都大学と住友林業が共同で開発を進めてきた世界初の木造人工衛星「LignoSat(リグノサット)」が完成した。
 2020年4月から「宇宙木材プロジェクト(LignoStella Project)」としてスタートし、木造人工衛星打ち上げをめざしてきた。LignoStella(リグノステラ)は、Ligno(木)と Stella(星)から、LignoSat(リグノサット)は、Ligno(木)とSatellite(人工衛星)から命名された。
 LignoSatは6月に宇宙航空研究開発機構(JAXA)に引き渡し、9月に米ケネディ宇宙センターからスペースX社のロケットで打ち上げられ、国際宇宙ステーション(ISS)へ運ばれる見込み。衛星から送信されるデータ解析などを通じ、宇宙空間での木材利用の可能性を探究する。



 LignoSatは約10㎝四方、重さ約1㎏の立方体。北海道で伐採されたホオノキの板が用いられ、ネジや接着剤を一切使わず「留形隠し蟻組接ぎ(とめがたかくしありくみつぎ)」と呼ばれる日本古来の伝統的技法で精緻かつ強固に組み上げられている。
 2022年3月~12月までISSの船外プラットフォームで実施した木材宇宙曝露実験、地上での振動試験、熱真空試験、アウトガス試験など様々な物性試験を行い、NASA/JAXAの数々の厳しい安全審査を無事通過。世界で初めて宇宙での木材活用が公式に認められた。

 木は軽くて強い素材である。驚くことに、同じ重量当たりの強度を比較すると、木は鉄の約4倍の引張強度、約6倍の圧縮強度を持っている。木には「くるう(寸法が変わる)」「燃える」「腐る」という三大欠点が存在する。しかし地球上での木の欠点も宇宙空間では克服されるという。
 「くるう」のは木材中の水分の増減に伴い木材の寸法が変化するからだが、宇宙空間には水がない。「燃える」のは酸素があるからだが、宇宙には酸素がない。また、「腐る」のは菌がいるからだが、宇宙空間には菌がいないからだ。それに加えて木には「電波を通す」という長所もある。これにより衛星の構造をシンプルに設計でき、故障の軽減にもつながる。
 更に、木の利点は「大気を汚染しない」こと。木材は完全に燃え尽きてCO₂と水になり、大気を汚さない上に、木材の炭素はもともと大気中のCO₂を吸収し蓄えていたものなので、燃えても大気全体のCO₂量を増やさない。

地球環境に優しい木造人工衛星
 従来の金属製の衛星では、燃焼の際にアルミナ粒子と呼ばれる微粒子を発生し、地球の気候や通信に悪影響を及ぼす可能性がある。しかし木造人工衛星は使用後の大気圏再突入時に燃え尽きて有害物質を発生せず、地球環境に優しい点が特徴。木造人工衛星は宇宙開発におけるカーボンニュートラルの第一歩であり、その意義は大きい。
 土井さんは「将来的には衛星内部の電子基板部分も含めて100%木造で作りたい」と強調。宇宙空間での木材利用が認められたことを「大きな一歩」と位置付けた。

 土井さんは「宇宙から戻り、今挑戦する夢のつづき」と題し、「木造人工衛星は、宇宙での森作りの夢への第一歩です」とクラウドファンディングで「宇宙木材プロジェクト」への寄付を募っていた(2023年5月目標額達成)。この壮大なプロジェクトに対しては、母校天文部OB/OG会の賛同者からも支援が行われた。

(2024.6.9)