「独りで悩まないで」がモットー、地域のばあば/冨田久子さん(高21回)
保護者と学校の橋渡し―井戸端会議
冨田 (旧姓・兼森)久子さん (高21回)は地元の小中学校から「地域コーディネーター」に任命され、保護者と学校の間の橋渡しをしている。以前堺市の小学校の校長を務めていたときにはじめた「井戸端会議」を地元の学校園(中学校・小学校・幼稚園)でも開いているのだ。月に 1 回、学年に関係なく保護者が集まって、気になること、悩んでいることなどを吐き出す。学校への不満や不安もここでは言える。冨田さん自身子どもを二人育て、たくさん失敗をしたと言う。親の立場も学校の事情も両方わかる。すぐに解決できなくても「思いを否定せず、馬鹿にせず、聞いて受け止める」。「そうやなぁ、しんどいなぁ」という共感がママたちを元気づける。学校に伝えるときには、親の葛藤も含めて話すそうだ。
1階の談話スペースで
出産・子育てと人権局女性政策室での経験で口癖が変わった
大阪女子大学(現・大阪公立大学)卒業後、堺市で中学校数学科教諭として15年勤務、その後堺市教育委員会同和教育指導室を経て、堺市役所の人権局女性政策室に8年。ジェンダーの視点から青少年・高齢者・障害者福祉などの施策の検討・企画に携わる。その後中学校の教頭、小学校の校長を務めた。退職後家庭裁判所の家事調停員を希望して今年の春まで 14 年間務めていた。現在も行政相談委員、人権擁護委員、男女共同参画センターの相談員など、引き受けている仕事は多岐にわたる。
自分自身が最初の子どもの出産のときに不安になり、当時の校長(理科教諭)に相談したら、少しも馬鹿にせずに出産の仕組みを解説してもらい、大丈夫だと言ってもらって安心したそうだ。子育て中のときには自分の母親に不安を話すと、「私もそんなときがあった、けどこのしんどいトンネルはいつか抜けるで」と受け止めてくれた。「悩みを聞いてくれる人、受け止めてくれる人」がいることが大事だと言う。
学校の管理職をしているとき、家庭でのトラブルを抱えている子どもは落ち着いて勉強できないことがよく見えた。そこで冨田さんは、保護者が何かの用事で学校に来たとき、「お茶でも飲んでいけへん?」と声掛けし、校長室でなんやかやと話を聞く。聞き上手に誘われ、ついつい話をして、思いのたけを吐き出して、明るい顔で帰っていく。翌日その保護者の子どもが「校長先生!ママと何話したん?ママが優しなってたで」と。
人権局女性政策室に勤務していたとき、自分自身が「良妻賢母でなければ」とジェンダーに縛られ、もがいていることに気づき、「弱点も含めた自分を自分自身が受け入れることの大切さ」に目覚めた。そのころから口癖が「やったらできる」「逃げたらアカン」から「できないこともあるんやで」「助けられ上手も大事やで」に変わってきた。そして「独りで悩まないで」がモットーになった。
「この悩み、話してよかった」「私は独りじゃないんだ」のつながりを拡げたい
2017 年に自宅の耐震改修を行う際に、「住民が集う拠点に」という夢がかなうように、1階の洋間はダンスの練習もできるぐらい床面を補強。断捨離を実行して家具や本、服、食器などを大処分。いつでもだれでも来られるようなスペースを作った。保護者、先生、近所の人、外国から移住してきた人、性同一性障害や離婚の相談など、様々な人が自宅を訪れる。
講演の依頼も多く、子育てや虐待、体罰、セクハラ、パワハラ、「加害者・被害者を作らない地域を」などの話をする。
今の活動は自分が昔、回りの人に助けられた恩返し。「この悩み、話してよかった」「私は独りじゃないんだ」のつながりを拡げたいと言う。
こうした長年の活動に対して 2022年に法務大臣表彰受賞。そして、お気に入りの感謝状を2つ家に飾ってある。1つは2019年西区役所からの感謝状、「あなたは多年にわたり地域で愛情をもって人に接し…」、もう1つはベトナム人家族からのカード、「津久野のお母さん(ばあば)いつもありがとうございます」
冨田さんは言う。「敷居の低い我が家であり続けたい」。
ベトナム人家族からもらった花束とカード
(2024.9.9)