三丘同窓会

定時制課程の放送研究会がまた快挙/「第2回みんなの人権・映像フェスティバル」で優秀賞

左から川端祥次先生、ウパダヤ・ユケスさん、福岡千晶さん

  「第2回みんなの人権・映像フェスティバル」(主催・世界人権宣言大阪連絡会議)の入賞発表が今年3月にあり、母校定時制課程の放送研究会が制作したドキュメンタリー映像「日本で生きる〜どんな出自や国籍でも共に〜」がみごと優秀賞を獲得した。大賞に続く賞で、上智大学の作品と共に選ばれたもの。
 この映像作品の制作にあたったのは今春、21歳で定時制課程を卒業したウパダヤ・ユケスさん(定69回)と、放送研究会OGの福岡千晶さん(定67回。現在神戸教育短大在学)。制作当時4年生のユケスさんが、日本に来てからこれまでの生活を振り返るために作った「私目線でのドキュメンタリー」作品だ。

 ユケスさんはネパール出身。父親が日本に働きに出た後、学校に行かず病弱な母親と弟たちの面倒をみていた。やがて14歳のとき、父親によばれて日本に。学校に行けないまま16歳から働き始めたが、夜間中学のことを知って入学。夜間中学を卒業すると、母校定時制の課程に進学した。「先生方はわかりやすいよう授業を工夫してくれた。同級生はネパールの山の話に興味を持ってくれたので、ネパールの自然の話やヒマラヤの魅力を伝えた」とユケスさん。


スピーチするユケスさん(ドキュメンタリー「日本で生きる〜どんな出自や国籍でも共に〜」から)
 

 日本はアニメを通じて親しみを感じていた国だった。外国人であるためにいじめられたり差別されたりすることはなかった。
 だが、ユケスさんを悩ませたのは、日本に来てから何度も職務質問に出会ったことだ。駅前で、何もしていないのに2人の警察官が来て、ユケスさんの両手を上げさせ、カバンの中身を調べたこともあった。
「びっくりした。なんでするんですか。外国人だけするんですか、と」と当時を語るユケスさん。そんなことが、多い時は月に2、3度もあったという。
 昨年10月に行われた大阪府の定時制通信制生徒発表会でそんな経験をスピーチしたところ、府議会議長賞を受賞。そのことが新聞にも取り上げられた。ところが、その後ツイッターではユケスさんを誹謗ひぼう中傷するツイートがたくさん見られた。もちろん、好意的なツイートもあったが。
 11月に東京で開かれた全国大会では文部科学省初等中等教育局長賞を受賞したが決勝には進めなかった。自分のスピーチはちゃんと評価されなかった。ユケスさんは顧問の川端祥次先生の前で、悔しさとともに、さまざまな思いを吐き出す。
 ──先生、ぼくは生意気ですか? ずうずうしいですか?

 ドキュメンタリー「日本で生きる──」では、ユケスさんがマンツーマンの指導を受けながら何度も繰り返しスピーチの練習をする姿、大会で身振りを交えながら明るく、抑揚豊かに日本語でスピーチする姿、そして悩む姿も描かれる。
 映像制作をともにした福岡さんは現在、教育の世界に進むべく勉強中の身。
「ユケスくんが受けた職務質問やツイッターでの誹謗中傷を見て、ショックを受けたと同時に、差別や人権に関する問題はとても根深いと感じました」と言う。でも「いろんな人が共に生きていける社会をつくっていこうと思っている」と力強く語る。

 ユケスさんはアルバイトしていた大阪市内のホテルから内定を得たそうだ。この春、ユケスさんも新しい生活を始める。

 
〔2023.4.19〕