SF短編映画「オービタル・クリスマス」凱旋上映会開く
──アメリカで映画作りを学んだ堺三保さん(高34回)のデビュー作
SF評論家・翻訳家・脚本家として幅広く活躍している堺三保(さかい・みつやす=本名・坂井光宏、高34回)さんが製作・脚本・監督を務めた短編SF映画「オービタル・クリスマス~聖夜を祝う全ての人に~」の凱旋上映会が12月11日に東京のグランドシネマサンシャイン池袋で行われた。堺さんの監督デビュー作であり、一夜限りではあるが国内初めての一般向け上映会とあって会場はファンや支援者、関係者たちで満席となった。
USCで学んだハリウッド流映画制作、資金はクラウドファンディングで
「ヘルボーイ」や「シン・シティ」、「X-メン」(共訳)などアメコミの翻訳、「機動戦艦ナデシコ」「ラブひな」、最近では「スター・ウォーズ:ビジョンズ」といったアニメの脚本など、その世界ではつとに知られた存在の堺さんだが、40歳にして大病を経験。入院期間中に今後のことを考え、「一番やりたいことを一から勉強してやろう」と決めた。それが「映画監督になること」だった。しかもアメリカで。
そして2007年、43歳で南カリフォルニア大学(USC)映画芸術学部に入学する。ジョージ・ルーカスやロバート・ゼメキスも学んだ、映画の学校としてはトップクラスといわれる名門。クラスメイトの半分くらいは20歳くらい年下だったそうだが、ここで3年半、ハリウッド流映画作りをみっちりと学んだ。
USC卒業後、いったん帰国して日本で仕事をしていたが、いよいよ2018年に行動開始。クラウドファンディングサービスの会社であるMotion Galleryを通じて出資者を募るとあっという間に1250人が参加、目標額達成。同社が手がけたクラウドファンディング国内実写映画最高額となる 2,182 万円を調達することができた。この資金を元に、仕事のかたわら映画製作を進めた。USCの元クラスメイトに現地プロデューサーを頼み、ハリウッドでスタジオを借り、俳優も現地でオーディション。もちろんセリフは英語。スタッフもアメリカ人。2度にわたって現地に入り、撮影は無事終了したが、その後の編集・音入れなどさまざまな工程を経てようやく映画が完成したのは2021年2月だった。ちなみに費用の面では総制作費1700万円に加え出資者へ送るDVD&ブルーレイ制作費などで、結果的には若干赤字になったそうだ。
2007年にはすでに構想がかたまっていたという「オービタル・クリスマス」。
舞台は近未来。地球の周囲を回りながら作業をする(「オービット」は軌道の意)宇宙ステーションの技術者であるムスリムの男性のもとに、ひとりの日本人の少女がやってくる。思いがけずクリスマスシーズンをともに過ごすことになったふたり。そして起こる小さな奇跡──。壮大にしてキュート、人種や政治的な背景も盛り込みながらあたたかな余韻が残る16分の作品だ。
堺さんの目的は、この作品がアメリカの映像業界に参入するための切符となること。そのためには映画祭に応募して実績をつくる必要がある。
世界の映画祭に挑戦
こうして、映画完成から約2年におよぶ世界の映画祭へのエントリーが始まる。コロナ禍もあってほとんどはオンラインでの参加となったが、北米大陸からアジア、中東、ヨーロッパ、アフリカ大陸まで、「オービタル・クリスマス」は文字通り世界中を駆け巡った。そして224の映画祭に応募、53入選(うち21入賞)という結果をもたらした。残念ながらアカデミー賞公認映画祭での入選はかなわなかったが、英国アカデミー賞公認映画祭やカナダスクリーン賞公認映画祭のいくつかには入選、さらには入賞もした。また、SF系の映画祭はもちろん、インディペンデント系の多くの映画祭で入選・入賞したことは大きな喜びだった、と堺さん。
この間、SNSでは応募の結果がそのつど堺さんから知らされ、仲間やファンたちはそのつど自分のことのように一喜一憂した。また、声優で作家の池澤春菜さんは「オービタル・クリスマス」のノベライズを手がけ、映画に先駆けて2020年に公開。これは池澤さんの初めての小説作品となり、翌年、優秀なSF作品およびSF活動に贈られる星雲賞(第52回)を受賞するというサイドストーリーも生まれた。
次は長編映画!
今年11月なかばに映画祭挑戦は終了、そして冒頭に記した上映会。「オービタル・クリスマス」の上映に加えて池澤春菜さんがMCを務めるトークイベントも行われて会場は大いに湧き、改めて映画完成の喜びがわかち合われた。
これで一段落、となるべきところだが堺さんの挑戦は続く。次の目標はもちろん長編映画の制作。その資金調達のための売り込みの際にも、「オービタル・クリスマス」は重要な役割を果たしてくれるだろう。
なお、今のところ「オービタル・クリスマス」の劇場公開の予定はないが今後、配信も検討しているとのことである。