三丘同窓会

第14回三丘アカシアトークカフェ開催/今井雅子さん「オトナの文化祭!! みんなで脚本作り」

  第14回三丘アカシアトークカフェは2023年9月2日に行われた。今回の講師は映画やテレビドラマからアニメ、基礎英語までさまざまなジャンルの脚本を手がける今井雅子さん(高40回入学、41回卒業。同級生が26クラス!)。
 文化祭が大好き。かつて教育実習に行ったときはちょうど文化祭の準備中で、自身が3年のときにやった「オズの魔法使い」を受け持ったクラスがやると聞き、授業そっちのけで生徒たちより自分が夢中になってしまった今井さん。そのかいあって文化祭は大成功に終わり、感動に泣き崩れ「教師最高!」と思ったが、後に「(教師にはならず)コピーライターになります」と報告に行くと先生に「よかった…」と言われたとか。「君が一番楽しんでたからね…」と。そんな今井さんの講演タイトルはずばり「オトナの文化祭!! みんなで脚本作り」だ。



脚本家の仕事は・・・

 脚本家って何をする仕事だと思いますか? 動詞で言うと書く、話す…そう、書くだけじゃなく話すこともとても多い。そして、聞く、調べる、まとめる、広める、売り込む、教える…では、これらをひとことで表すと? 私は「つなげる」だと思います、と今井さん。
 脚本家になるには「つなげ上手」であることが大事。つなげるというのは接点を探すこと。そして脚本づくりは連想ゲームであるという。「なんで?」「そんで?」から世界がひろがっていく。知らないことは知らないと白旗をあげ、教えてくださいと言えば相手はどんどん教えてくれるもの。そうやってどんどんつながっていく。脚本作りは毎日文化祭をやってるようなものだという。

つなげること!

 映画化された「パコダテ人」の脚本は1999年の函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞の準グランプリ受賞作だが、たまたま前年の授賞式会場で酔った勢いで「パコダテ!」と言ったことから生まれた。さらに「パコダテといえばしっぽ」となぜか連想が浮かび、「ほっかいどう」が「ぽっかいどう」になるというパコダテ語を思いつき、とまらなくなってホテルに戻ると備え付けの便箋3枚に一気に書きつけた。すべて「酔っていた」からだそうだが、それがプロットになった。
 もちろん、映画化にあたってはそこから「掘り下げる」という作業が必須。映画化にあたって前田哲監督と話し合うなかで「しっぽはどんなしっぽ?」「北海道だからキツネかな」「キタキツネにはエキノコックスという寄生虫が」「じゃあ、そこから差別が始まって…」と連想ゲームがどんどん広がった。

 最近では、映画「うそ八百」シリーズ(足立紳さんと共作)がよく知られているが、このときは「嘘を書くための真実」を集めることが必要だった。
 堺が舞台の第一作(2018年)は、幻の利休の茶器をめぐる話だが、当時、今井さんは「利休は陶芸する人だと思っていた」くらいだった。まずは堺の地元で活躍する陶芸家さんに話を聞くと「楽焼といえば赤楽、黒楽がよく知られているけど『幻の茶わん』は緑楽にしては?」と提案された。博物館の学芸員さんからは「利休といえばカモメですよ」と言われる。さらに陶芸家さんから「そういえば、かつて『茶碗の中に大海原をつくるようなつもりで作りなさい』と言われたことがあります」。それを学芸員さんに言うと「利休の頃なら『大海原』という言葉は使わない。使うとしたら『わたのはら』でしょう」。じゃあ「わたのはら」を使った利休の歌を作りましょう!等々、さまざまな人たちとの対話を重ね、知恵を借り、連想を広げながらあの脚本ができていった。ちなみに、学芸員さんが作ったその歌の出来が良すぎて、すっかり利休作と信じてしまった人もいたそうだ。

「なんで?」を考える

 さて後半は鳥獣戯画のワンシーンを用いたワークショップ。トークカフェの参加者には下のようなプリントが配布されている。


 「ワーク1 なんで?」では、上のように、カエルがなんで倒れてるか、サルはなんで走ってるのか、これはどこで、いつのことなのか。参加者に自由に書いてもらう。制限時間3分。「書いたものを発表したい人〜」と今井さんが呼びかけると初めはそろそろ、次第に次々と手が上がる。

発表者1(男性)「カエルはコロナにかかって倒れている。サルはコロナの恐ろしさを知ってたのでいち早く逃げてます」
今井さん「以前のワークショップではなかったコロナが初登場。その病気をどうとらえるか、それぞれのキャラの反応で話を転がしていけますね」

発表者2(男性)「カエルが倒れているのは心臓を取られたからです。サルはその心臓を奪って逃げています。ここは病院。オペ中です」
 これは衝撃的な解釈。
今井さん「ウサギは看護師ですか。そう言われると、ここがオペ室に見えてきます。野戦病院かもしれませんね」

発表者3(女性・リモート参加)「カエルは暑いのでおなかに風を集めて冷やしています。サルはひとりになりたい。ここは公園です」
今井さん「行間が感じられる設定です。このカエルとサルがどうやって出会えるのか、想像がふくらみますね」

発表者4(女性・リモート参加)「ある姫様に献上する秋の枝探し大会。カエルはやっと見つけた枝をサルに取られてショック」
今井さん「枝探し大会! 描かれている枝に目をつけて、そこから広げたんですね。おもしろい!」

「そんで?」を考える

 「ワーク2」では「ワーク1」での設定にもとづいてセリフを考える。○にはセリフを言う順番を書く。さて、どうなるか。



発表者にはまず全体の設定、そしてセリフを発表してもらった。以下抜粋。

発表者1(男性)「この場面は、カニとの最終決戦に向かっているところです。カエル1が倒れてるのは息子がいくさに行くのを知り卒倒した母親」
今井さん「これ、母なんですね。母ガエル!」
発表者1「向こうに浜辺も見える平原が舞台。サル暦1600年です」
・サル「ものども続け!」
・ウサギ3「サルさまがほうびをくれるぞ」
・カエル3「水辺のいくさはわれわれカエルにおまかせを」
・カエル2「おっかあ、おれは手柄を立ててくるぞ」
・カエル1「ああ我が子よ、死なないでおくれ」
・ウサギ2「お国のためじゃ、サルさまのためじゃ」
・ウサギ1「あんたらカエルはほうびのカキを食えるのかね」
今井さん「おみごとでした。サルカニ合戦との合体。オチもいいですね」

発表者2「もともとここはカエルとウサギが住む村だったが、そこへサルがやってきて住み着いた。ウサギ3とサルは夫婦になった。秋の収穫中のお昼のことでした。サルとカエルの浮気が発覚。怒った妻(ウサギ3)が、サルを追いかけています」
今井さん「修羅場ですね!」
・ウサギ3「待ちや! いっぺんしばいたらんと気がおさまれへん!」
・サル「すんません、二度とせえへんから許してください」
・カエル3(男)「まあまあ許したれや」
・カエル2(男)「まあまあ落ち着いて。追いかけたら余計逃げるで」
・カエル1「もう二度としません」
・ウサギ1「許されへん」
・ウサギ2「ほんまや、ようもやってくれたわ。女の敵や!」
 会場のみなさん終始笑いっぱなし。発表者さん自身も笑いながら「いつも恋愛ドラマばかり見てるもんで…」
今井さん「いままでこのワークショップをしてきた中で一番ドロドロでした」


発表者は前に出て説明

発表者3(男性)「これは夏休みの終わりから始業式にかけての時系列を表しています。カエル1は宿題ができていません。仮病を使って締切を延ばそうとしています。サルは初日にさっさと提出して遊ぼうとたくらんでいます」
・サル「わーい、夏休みの宿題終わった。提出して遊びに行くで」
・ウサギ3「いつも赤点のあんたが最初にできるわけないやろ。何ズルしたんや!」
・カエル2「ええな。おれも写さしてもらお」
発表者3 このあたりで始業式になります。
・カエル3「先生、提出って最初の授業でいいんですよね?」
・ウサギ2(カエルを心配した保健室の先生)「カエル、だいじょうぶか? おまえ、しんどいんか?」
・カエル1「うー、しんどい…」
・ウサギ1(担任)「先生、これ仮病なんで。いつものことですわ」
今井さん「途中で日が変わるというのが新しい。初めてです」

発表者4(女性)「場所は大阪城の二の丸広場。お弁当を配布しています。カエル1は空腹に耐えかねて倒れています。サルは先頭きってお弁当を取りに行ってる。みんなの希望の星だと思い込んでいる」
・カエル1「おら腹減りすぎてもう歩けね」
・ウサギ1「がんばれ」
・ウサギ2「まかせとけ。ここで寝てろ」
・サル「おれはサル軍団のヒーローなんだで、何がなんでもみんなの弁当持って帰らにゃなんねえだ」
・ウサギ3「そうはさせない」
「サルは秀吉をイメージしました」とのこと。文字ではわからないと思いますが、見事なセリフまわしに感嘆。
今井さん「『嘘八百なにわ夢の陣』にちなんで大阪城、秀吉だったんですね!」



 個性豊かなみなさんのノリノリの発表を聞いて「全員違うというのがおもしろいですね。同じものでも人によって見方が違う」と今井さん。
 「人間ほどおもしろいソフトはない。今日も改めて思いました。今日書いてもらったことを脚本の書式にしたら、それでもう、脚本なんです。書式より何より、要はおもしろい発想があるかどうか。脚本は何歳からでも書けます。脚本を書く目で見ると、たとえば職場にいやみな上司がいても、それをキャラクターとして興味をもって観察する。そしたら毎日会うのが楽しみになります」と。
 大切なのは「なんで?」「そんで?」「へえ〜!」。「傘と心は開いたときがいちばん役にたつ」というすてきな言葉を紹介していただいた。


いつものように記念撮影。前回まではマスクを撮影時だけ一斉にはずして、撮影が終わるとあわててまた着用。でも今回は普通に、並んだ時からマスクなしで。
今回の参加者は48人(うちリモート参加4人)でした。


今井 雅子(いまい まさこ)
脚本家。高40回入学、在校中にアメリカに留学、高41回卒業。広告代理店マッキャンエリクソンでコピーライターとして活躍するかたわら脚本家修行にはげみ函館港イルミナシオン映画祭第4回シナリオ大賞準グランプリ受賞作品が映画化された「パコダテ人」(2002年公開)でデビュー、その後脚本家専業となる。「子ぎつねヘレン」、朝ドラ「てっぱん」、「昔話法廷」、アニメ「おじゃる丸」、最近では映画「嘘八百」シリー ズ、「ミヤコが京都にやって来た!」シリーズ、「失恋めし」「束の間の一花」「恐竜超世界」など作品多数。

 
〔2023.9.9〕