三丘同窓会

三丘アカシアトークカフェ第12回「ロボティクス技術で宇宙を拓く」開催
「科学する」ことの楽しさを伝えたい/西田信一郎さん(高26回)

  第12回三丘アカシアトークカフェ「ロボティクス技術で宇宙をひらく」は、12月3日(土)午後2時30分から、三丘会館2階ホールで開催された。
 今回の講師は、西田信一郎さん(高26回)。小学生4年生の頃からの天文・宇宙ファンで、母校では天文部に所属。趣味の一環の天体望遠鏡の自作が高じて、京都大学機械工学科に進学。大学院修了後に、東芝の宇宙開発部門に就職。宇宙ロボット、人工衛星のシステム設計・開発を担当。2002年に科学技術庁航空宇宙技術研究所(NAL:JAXAの前身のひとつ)に移り、国際宇宙ステーションでの実験ミッションや、「はやぶさ」カプセル回収班班長を担当。携わった宇宙ミッションは全て成功させ、自他共に認める「強運」の持ち主である。
 2013年に鳥取大学大学院工学研究科教授に着任。宇宙に限らず地上の各種ロボット研究にも携わる。現在は鳥取大学特任教授として研究を続けられている。
 今回は、宇宙への想いと、今後「火星」を目指す際の宇宙ミッションの課題、そして現在取り組んでいる地上ロボットの研究に関して話していただいた。

月探査は火星に行くための練習

 鳥取大学に着任して以来、8年間で100日くらいは「さじアストロパーク」の庭で満天の星を眺めていました。真夜中にたった一人で星を見ていると、宇宙空間に放り出されたような感覚になります。そういう時には「地球人は宇宙人だな」と感じます。私は片目が良くないので宇宙飛行士になれない。宇宙は危ないので、私のような小心者はロボットに行かせようと思い、ロボットの研究を色々とやっています。

 月惑星探査の目的は、太陽系はどのようにしてできたか、各惑星はどのように進化したか、を調べることです。月までは「アポロ計画」で行くことができました。今、各国は火星の有人探査を目指しています。
 火星の地中にはたくさんの水があるのが分かっています。水があると生命が誕生している可能性があります。昔は海があったのだろうが蒸発して表面には無くなりました。どういう過程で水が無くなったのかを調べる事は意義深い。生命とは何か。太陽系はどのようにしてできたか。各惑星はどのように進化したか。そこを調べたい。
 実は、月にはサイエンス的に面白いテーマはそんなにありません。月探査はあくまで火星に行くための練習です。まず月で有人探査の練習をして、そして火星に行く。しかし火星表面探査には多くの課題があります。


 まずは、「探索ミッション」。生命の痕跡はおそらく表面には残っていないため深く掘る必要があります。かつての海岸べりに堆積岩として残っている可能性があるので、そこを掘削しなければなりません。
 そして掘削したサンプルを持ち帰る「サンプル・リターン」ですが、火星探査の「サンプル・リターン」は大掛かりとなります。火星の周りをまわる機体と着陸機の2機に分かれて、着陸機が火星に降りる。着陸機から惑星探査車(ローバー)が走り回って、掘削したサンプルを拾う。そのあと、上昇機という形で小さいロケットを着陸機の上から発射して、火星の周回軌道上に上げる。それを周回機がランデブーして捕まえて、サンプルが入ったものを地球に持ち帰ってくるのです。

 火星は空気が薄いが砂嵐があります。レンズや探査機の機構が砂まみれになる。そうしたことに配慮しなければなりません。不整地を走行しなければなりません。固い車輪は、その砂の中に埋もれてしまい、同じ場所でぐるぐる車輪だけ回転してしまう。埋もれない車輪にするには、変形して広い面積で接地する柔らかい車輪の構成にする必要があります。ゴムは空気の薄いところでは、すぐボロボロになって使えないので、金属製の柔らかい車輪を考案しました。
 そして、「操縦・制御」。火星は地球から遠いので、電波が届くのに何分~何十分という時間がかかります。そのためにリアルタイムでの遠隔操作は行えない。ロボット自身が障害物を検知して、自分で回避しなければなりません。自動でうまく制御できるかが重要な課題です。

担当した宇宙ミッションはすべて達成! 強運!! 

 「日本の宇宙ロボット」として最初に宇宙に上げたのが、1997年の「MFD(マニピュレーター飛行実証試験)」です。同じ年に「ETS-Ⅶ」という実験衛星を上げました。これはランデブーや自動ドッキング、ロボット実験を行う衛星です。「ETS-Ⅶ」では色んな実験を行いました。軌道上で自動のロボット衛星が、別の衛星の修理をしたり、交換したり、燃料(推進薬)を補充したり、浮かんでいる衛星を自動で捕まえることもやりました。
 「JEMRMS」はチャレンジャー事故などの影響で、宇宙ステーション計画が大きく遅れて、「ETS-Ⅶ」より後になって2008年に打ち上げられました。これはISS(国際宇宙ステーション)の「きぼう」日本実験棟のロボットアームで、それの先につける小さいアームの部分の試作機を改修してスペースシャトルに搭載して実験しました。

 μ-LabSatの実験は予算もなかったので、市販のデジカメをバラして宇宙でも大丈夫なようにして箱に入れて飛ばしました。画像計測する計算機はR3000という当時のプレイステーションにも使われていたRISCチップを使って計算機を組み上げて飛ばしました。
「REX-J」は2012年に打ち上げました。これはJAXAの若手が組み上げたので、「絶対失敗する」と言われていました。担当者が打ち上げ前に定年退職してしまい、当時JAXAの相模原にいた私がなぜか筑波に移されて担当しました。私の強運でなんとか成功しました。このように怪しく困難なミッションがあると私のところに回ってきました。

 「はやぶさ」の時もそうでした。満身創で地球までたどり着けないだろうと言われていたのですが、これも私の強運のおかげで、わずかですけれど、サンプルを持ち帰ることができました。
 「はやぶさ」はオーストラリアに行って回収しました。地球の大気圏に飛び込んで、本体はバラバラになって燃え尽きました。カプセルは高温になっても壊れないようになっているので、燃え尽きずに降りてきます。カプセルはまだ熱いので、赤外線カメラを搭載したヘリコプターですぐに見つけられました。見つけられないことを想定して、回収隊はみんな新しいスニーカーを買って、みんなで横一列に並んで歩いて探そうと考えていたのですが、そういうこともやらずにうまく回収できました。

地上ロボット

 鳥取大学では建設会社と共同研究して橋脚のひび割れを検知するドローンを作りました。レーザーレンジファインダーで姿勢とか距離を計測します。橋脚のコンクリートをたたく装置をつけて、橋脚をたたき、その音を拾って、その音を分析して橋脚のひび割れを検知します。自動で分析するドローンです。ディープラーニングを使って色々分析する手法を開発して、音からひび割れを識別できるようにしました。

 土星の衛星の「Enceladus(エンケラドゥス)」、木星の衛星「Ganymede(ガニメデ)」は氷の衛星です。表面は氷ですが、地中に水の状態の海があると考えられている。巨大惑星の重力により、潮汐力ちょうせきりょくも大きく、衛星自体が伸び縮みして、その弾性エネルギーが熱エネルギーになり、中は溶けた状態です。それで水の海がある。氷中に水があるので、生命が誕生している可能性があります。この「ICY MOON」の探索は各国が目指しています。
 鳥取大も水中ロボットを作っています。「メタンハイドレート」や「レアメタル」の海底掘削機です。鉱脈に沿った位置を計測しないとならないが、掘削すると周りが濁る。それで自分の位置を計測する水中ブイのロボットを考案しました。位置計測のセンサーをつけて、移動できるところまで確認して定年退職しました。

質問タイム 

 質問タイムは大いに盛り上がりました。以下、Q&A形式でお伝えします。

──JAXAはNASAなどに比べると、やたら女性が少ないが、ガラスの天井があるのですか?
西田 日本ではなぜか女性は薬学や化学に行き、機械や航空の学科に行かないです。JAXAは女性を優先的に採用しているので、広報や法務には沢山女性がいます。基本的に男性より出世が早いです。

──宇宙空間でなぜ惑星は丸い球体になるのか?
西田 重力で原始惑星物質が集まるから。沢山集まると、重力が非常に大きくなり、重力に引き付けられて集まる運動エネルギーが熱になって溶けてしまう。線香花火が最後に丸くなる。あれと同じです。

──「はやぶさ」のパラシュートはなぜ燃えないのですか?
西田 地球の大気圏に入ったかなり後で、ふたが取れて、そこからパラシュートが出るからです。

──西田先生のロボットアームで、医療介護ロボットを作ってください。
西田 今、リハビリロボットを作っています。

──宇宙で物をつかむときなど、どのように想像しながら実験するのか?
西田 2次元で模擬しながら3次元解析に反映して行います。

──モチベーションは何ですか?小学4年生から宇宙に興味を持ち続けてやってこられて、色々なものに応用できる技術を開発される原動力は何ですか?
西田 モノづくりが好きなことです。父親がモノ作りが好きで、家は実験室状態でした。歩き始めた頃からそういう環境でした。

──「宇宙兄弟」はご覧になりましたか?
西田 漫画編集者が私のところに質問に来ました。当時「宇宙兄弟」はNASAの有人探査車に乗るという話になっていました。「違いますよ。たぶん有人宇宙探査車は日本が担当しますよ」と、こんな話を延々やりました。それ以降の漫画には、私の意見が多少反映されていると思います。

── アメリカが「アルテミス計画」でもう一度月に行こうとしているが、中国とどちらが先になるか?
西田 どちらが先になるか分かりませんが、NASAは月に人間が行くのは「アポロ計画」で達成しています。ここは競争しても仕方ないというスタンス。あくまで月は練習。火星のための練習。火星に人が行くのは大変なので、1国では出来ない。NASAを中心として協力し合う形になると思います。

──先日打ち上げられた人工衛星「OMOTENASHI」が月に着陸できなかったのは太陽光のエネルギーが足りなかったようですが。先生は関わられたのですか?
西田 私は関わりませんでしたが、知り合いがやっておりました。最初の姿勢制御がうまくいきませんでした。太陽電池を太陽に向けないといけません。私の「強運マーク」を使うことができませんでした。

  大爆笑で質問タイムを終えました。


いつものように記念写真。
 
〔2023.1.28〕