三丘アカシアトークカフェ第10回「昆虫食とSDGs」開催
─── 昆虫は持続可能な未来のタンパク源 ───
2018年から始まった三丘アカシアトークカフェ。記念すべき第10回は7月31日午後2時半からいつものように三丘会館で開催された。今回の講師は近年注目されている昆虫食の輸入・製造販売会社「(株)昆虫食のentomo」を運営する松井崇さん(高50回=写真)。産学連携で昆虫食の商品を開発したり、食育イベントを通じて昆虫食の普及をはかっている。 今回のカフェは初の試みとして、リモートでも参加できるハイブリッド方式を採用した。
冒頭で松井さんからの質問。
「昆虫を食べたことある人は?」
挙手した人は意外に多く約半数。しかし、半数の人は昆虫を食べたことがない。(ちなみに食べたことがある昆虫はほとんどがイナゴ)。
「ではカマボコや抹茶アイス、グリーンガムを食べたことのない人は?」
これはたいていの人が食べたことがあるはず。実はこれらの食品には昆虫から取った色素が使われている。カマボコにはカイガラムシからとったコチニール(赤い色素)、抹茶アイスにはカイコの排せつ物から作った蚕沙という色素(緑色)が使われていたりする。
「つまり、知らぬ間に我々は昆虫を食べているのです」と松井さん。
松井さんが昆虫食に興味を持つようになったのは、数年前に体を壊した時。いろんな食事療法や健康法を試しているうちに興味が湧いてきた。調べているうちに、人類は狩猟採集生活をしていた時代から昆虫を食べていたこともわかった。当時の人類は糖尿病にも虫歯にも縁がなかった。
嫌悪感、偏見が問題
昆虫は高タンパク、栄養豊富。頭から尻尾まで丸ごと食べられる。
昆虫を食べない理由がないのじゃないか?と松井さんは考えるようになる。
古代からずっと続いていたのにこの数十年間に排除されるようになった昆虫食文化を見直すべきではないのか?
昆虫食は持続可能な蛋白源で、SDGsにもつながる。
問題は嫌悪感。偏見だ。しかし、「脚が多いと言ってもたかだか6本。エビより少ない。小さいし。よく見ればエビよりもかわいい」と松井さん。
とは言っても、松井さん自身、昆虫には偏見を持っていた。
昆虫を食べてみようとイナゴのつくだ煮を取り寄せ、食べようと箸でつまんだが、なんと、食べるまでに30分かかった。しかし、クリア。食べてみたらけっこうおいしいと感じたそうだ。
昆虫食を始めるにあたってのもう1つのハードルは価格が高いことだが、すでに養殖が始まっているという。安定的供給ができれば価格も下がるはず。
昆虫養殖は効率がいい
1kg分の肉を生産するのに必要な土地、エサ、水をコオロギと牛で比較すると、いずれもコオロギのほうが牛より効率が良い。コオロギは立体的な養殖場が可能。エサも少なくて済む。温室効果ガスの排出も少ない。コオロギは牛のようにゲップもしない。
それだけではない。
昆虫採集は虫取り網1本から、昆虫養殖は衣装ケースから始めることができ、昆虫食ビジネスは小資本から始めることができる。また昆虫は小さく軽いため、力の弱い女性やお年寄りも扱いやすい。更に昆虫は高タンパク質でミネラル豊富。特に途上国での昆虫食ビジネスは現地の貧困問題や栄養改善も解決してくれるかもしれないのだ。
そのため松井さんは昆虫を西アフリカの最貧国のブルキナファソの生産者からフェアトレードで直接仕入れている。そして「エビも昆虫も大差ない。シーフードカレーがあるなら昆虫カレーもあって良いんじゃないか」というコンセプトで、産学連携で昆虫食レトルトカレー「いもむしゴロゴロカレー」の製品化を目指している。このカレーには、ブルキナファソ産のシアワーム(イモムシの一種)とドライマンゴーを使用している。
シアワームとは、シアバターで知られるシアの木に生息してシアの葉を食べて育った芋虫。日本では未知の昆虫で日本名が無いため、松井さんが商品名としてシアワーム®という商標をつけた。
昆虫食の未来は?
世界の食用昆虫市場規模は拡大し続けている。
2016年 466億円
2024年 795億円(8年で1.7倍)
と予想されるそうだ。
大手企業も次々参入している。
今はまだ粉末にしてクッキーなどに加工されることが多い。無印良品のコオロギせんべいはヒット商品となった。
だしに使われることも多い。「コオロギラーメン」もすでにある。
将来、偏見がなくなったら、粉末にしたりせず、形とか歯ごたえを味わうようになるだろう。品種改良も行われるだろう。その産地ならではの餌を与えて育てた「地ビール」ならぬ「地コオロギ」もできるかも。
この昆虫だからこの料理、という風になる。そして、なぜ昆虫を食べるのか?「おいしいから食べるんだ」というようになる日が来るだろう。
松井さんは2018年武漢で4日間にわたって開かれた第2回昆虫食と昆虫飼料の国際会議「The 2nd International Conference “Insects to Feed the World” (IFW 2018)」 に参加した。参加人数300人のうち、日本から参加したのは4人だけ。なごやかな雰囲気で、競争しようというより、みんなで市場を作っていこうという空気が強かった。昆虫食産業は始まったばかりなのだ。
食糧危機は来ないのではないかという説もある。
食糧危機が起きなくても、昆虫食の意義は失われないとみる。昆虫食について研究していくことが健康や環境、環境、食文化全体の研究に大いに貢献するはずなのだ。先進国の日本でも、食材の選択肢の1つに新たに昆虫が加わることで、食文化がより豊かになるだろう。
最後に・・・虫の苦手な人は閲覧注意?!
下の写真は今回の講演中、乾燥したシアワームを水につけて戻しているところ。「やってみたい人」と希望者を募ると次々に手が上がった。さすが三丘生、みなさん好奇心旺盛、積極的だ。「虫は苦手だけど、これは動かないので」という人も。確かに。
「水につける前に、まずにおいを嗅いでみてください」と言われ、嗅いでみた人は「干しシイタケに似てる?」。
乾燥したシアワームからはおいしいだしが取れる。そして水につけて戻したあとはゆでたり素揚げにして食べられる。レトルトカレー「いもむしゴロゴロカレー」の「いもむし」もこのシアワームなのだ。
というわけで、いつにも増してドキドキ・ワクワクの三丘アカシアトークカフェ、無事終了いたしました!