三丘同窓会

三丘アカシアトークカフェ第9回「芸能としての映画」開催
─── エンターテインメントの可能性を信じて ───

 三丘アカシアトークカフェ第9回 「芸能としての映画」は、5月22日、映画監督の阪本順治さん(高29回) を講師に迎えて開催された。
 次々と話題作を生み出している阪本さんの講演とあって、緊急事態宣言下にもかかわらず56名の聴衆が三丘会館に集まった。参加人数は定員の半分以下とし、感染対策が徹底されたのは言うまでもない。



 まずはこれまでの監督作から選んだ9本の予告編映像を鑑賞=写真上。「どついたるねん」「王手」「顔」「KT」「闇の子供たち」「大鹿村騒動記」「北のカナリアたち」「エルネスト」「半世界」。作品をご覧になった方も多いのではないだろうか。他にも「亡国のイージス」「魂萌え!」「団地」など、今や著名な映画監督となった阪本さんは、横浜国立大学在学中より映画制作の現場にスタッフとして参加。監督業のなんたるかを学んだ。「よし、監督の仕事は全部わかった!」と、いざ自分で撮ってみて初めて気が付いたのは「ものを作ったら批評される」ということだった。できあがってからの試練もあるのである。酷評した批評家に、はらわたが煮えくり返って、「今度会ったら覚えとけよ!」という気持ちになったが、実際は当人を見かけたら、飛んでいって「おはよーございます!」と機嫌を取ってしまったと笑う。今でも夜、酔っ払って大きな気持ちにならないとネットの評は見られないという。

 「KT」、「闇の子供たち」など社会派と呼ばれる作品では、いわれなき中傷や暴言、生命を脅かされるような経験もあった。それでも、問題をエンターテインメントとしてどう提示できるかを目指している。NGO活動に目を向けてもらうため、若手スターに出演を口説いたこともある。作品を通して多くの人の目に触れ、意識されていくことが大切だと考えているからだ。その姿勢が有名な俳優さんたちからも信頼され、多くの企画を持ちかけられている。

 俳優という職業は、素晴らしい。なぜなら、自分とは全く交わりのない誰かのことであっても、ひたすら理解しようとすることを生業としているからだと話す。演出の仕事もそれは同じである。俳優を意味する「役者」という言葉に「役行者(えんのぎょうじゃ)」をかけた。求道の修行者といえるかもしれない。

 勝新太郎さん、原田芳雄さん、吉永小百合さん、藤山直美さんなど、名だたる名優とのエピソードはどれも面白い。デビュー作「どついたるねん」では撮影前に赤井英和さんに20㎏の減量を課し、自身もそれに倣って、撮影の30日間で11㎏も痩せた。空腹で頭がさえた経験から、それ以降も撮影中はせいぜい柿ピーや魚肉ソーセージをかじる程度で過ごすという。
 エピソードには笑いを誘うものが多かったが、大スターと言われる人ほどおごらず、若手俳優やスタッフにも同じように接しているという感想が印象深い。

 仏壇屋の三代目として生まれ、家業を継ぐことを期待された。高校在学中は挫折の中に家出や放浪を繰り返したが、映画監督になると決めて心が落ち着いたという。なかなか実現できない夢だろうから、いつになっても構わない。その分、挫折も少ないだろうと考えたそうだ。

 会場には映画監督を目指す現役生の松原成美さんの姿もあった。「自分の伝えたいと思っていることは、映画やドラマでなら、より伝えられそうな気がする」と語る彼女に、阪本さんの珠玉の言葉が響いたことだろう。

 ここで豆知識クイズ。「スクリーンには○○の○がある(○は漢字)」・・・正解は「無数の穴がある」なのだが、では何のために?というと、スクリーンの後ろにはスピーカーがあるから。基本的には前方正面と左右、サイド、後方の5台と正面脇にあるサブウーファー(低音などを響かせる)1台で5.1chサラウンドということになる。シーンによって、どのスピーカーからどの音を出して臨場感をより際立たせるのか、作品はそういったところまで考えて作られているが、テレビでDVD鑑賞となると、ホームシアターでもない限り映画館で聞こえたはずの音が聞こえないことも出てくるという。
 映画は映画館で観られることを想定して作られている。できるだけ映画館で観なくてはと、改めて思った。


恒例の記念撮影。この時だけはマスクを外して。
(2021.6.21)