ケトン体で腎機能改善の可能性
滋賀医科大学 前川聡教授(高27回)らのグループが発表
右端が前川聡教授。今回の研究を行ったグループの富田一聖大学院生(中央)、久米真司講師(左端)とともに
糖尿病患者の急性合併症を引き起こす原因となる「ケトン体」には、適量投与することで糖尿病性腎臓病を改善できる可能性がある──このほど、滋賀医科大学の前川聡(まえがわひろし)教授(高27回)らのグループがそんな実験結果を論文にまとめ、7月28日付の米科学誌「Cell Metabolism(セル・メタボリズム)」電子版に掲載された。
インスリンが欠乏している糖尿病患者の場合、ブドウ糖を分解してエネルギーにすることができないため、代わりに脂肪が分解されてしまう。このときできる副産物がケトン体。ケトン体が過剰につくられると血液が酸性に傾いて急性合併症を引き起こし、時に意識障害や昏睡に陥ることもある。糖尿病性ケトアシドーシスと呼ばれる、命に関わる合併症である。
前川教授らのグループは糖尿病性腎臓病のマウスを使った実験を重ね、その結果、血中のケトン体濃度を適切に上昇させると臓器の組織修復がもたらされ、腎臓病の進行が緩やかになることを発見した。糖尿病に関して「悪者」扱いされていたケトン体が腎臓を守るという、これまでのイメージが180度変わる出来事である。
糖尿病性腎臓病は人工透析を必要とする疾患として最も多いものであり、治療法の開発が望まれているが、その意味でも画期的な発見といえる。今はマウスでの研究結果だが、今後さらに研究を続けることで治療法としての確立が期待される。
前川教授は母校から滋賀医科大学(大津市)に進学。同大学一期生で現在「内科学講座 糖尿病内分泌・腎臓内科」教授、糖尿病内分泌内科科長。本年10月5日〜16日に開催される第63回日本糖尿病学会年次学術集会(当初、大津市内で予定されていたが新型コロナウイルス感染拡大の影響によりWEB開催)会長を務める。
(2020.8.6)