「iPS細胞で心不全治療」実用化を目指し臨床研究へ
阪大・澤芳樹教授(高26回) らチーム
大阪大学の心臓血管外科・澤芳樹教授(高26回)らのチームが、iPS細胞から作った心筋シートによる心不全治療の臨床研究を大学に申請した。大学の審査委員会と厚生労働省の承認を待って、来年前半にも患者3人を対象に臨床研究を始める予定で、まず約1年をかけて効果や安全性を確認する。iPS細胞を使った心臓病への治療は世界で初めてとなる。澤教授らはすでに、患者の太ももなどの筋肉細胞から作ったシートを心臓に移植する治療を実用化しているが、心筋細胞と違って拍動しないこともあり、重い心不全には治療効果が低いといった課題があった。
今回は、iPS細胞から心筋細胞そのものを作ってシート状にするため、心臓の動きに合わせてシート自らも拍動、心臓の一部のように働くことで心機能の改善が期待できるという。また、京都大学iPS細胞研究所があらかじめ作り置きしている「iPS細胞ストック」を使うことで、シートの作製日数も大幅に短縮される。
澤教授は7月21日の記者会見で、5~6年後の実用化を目指し、「患者さん本人の心臓を生かしながら、生活の質を向上させる医療を一刻も早く提示したい」と抱負を語った。
また澤教授らのチームは、心臓に取り付けた人工弁が機能しなくなった重症心不全の患者に、カテーテルを用いて新たな人工弁を設置する手術に成功したと、7月25日に発表した。 心臓の人工弁は8~12年で劣化するため再設置することになるが、重症患者の場合、開胸手術をすると体への負担が大きく、術後には補助人工心臓の使用が必要となる可能性も高い。臨床研究として6月20日に行なわれた今回の術式は、カテーテルを胸から挿入するため大きな開胸手術が不要となる。
「重症患者の治療に画期的な変革をもたらすと確信している」と澤教授が語った記者会見には、60代の男性患者も同席、笑顔で回復した喜びを語った。
(2017.8.1)