三丘同窓会

現役医師にしてベストセラー作家/高26回・久坂部羊さん
 元新聞記者の松野が医者の診断ミスで妻を傷つけられ、“医療過誤”をテーマにしたノンフィクション執筆を思いつく。麻酔科医・江崎の協力を得て、医師たちの過去の失敗“痛恨の症例”や被害患者の取材を開始する。そして被害者取材の過程で、ある医療事故にであい-------医療ミステリー「破裂」(幻冬社・2004年刊)は大学病院の実態や医療現場を克明に描いて各界から高い評価を得るとともにベストセラーとなったが、これを著したのが高26回・久坂部羊(くさかべ・よう=筆名、本名は久家義之)さんだ。

 久坂部さんは大阪大学医学部卒の外科医。専門は消化器外科で大阪大学付属病院でがんの手術等にあたっていたが、末期がん患者と向き合う日々に疲れ、外務省の医務官に応募。約9年間をサウジアラビア、オーストリア、パプアニューギニアで過ごした。やがて大使館での日々にも疑問を抱くようになり、97年に帰国後は老人医療の 現場に。現在は堺市内の在宅医療クリニックに勤務する。週3日勤務、それ以外は執筆にあてる。
 高校時代に小説に目覚め、医学部に進まずに小説家になることを夢見たくらいだったが、麻酔科医であった父親から「とりあえず医者になり、生活基盤をつくってから小説を書けばいい」とのすすめで医師に。現在は若いころからの夢をかなえたかたちだが、持って生まれた文才や自由な発想に加え、医療現場を知るものならではの経験や問題意識がその作品に深みを与え、ユニークな作家として注目を集めている。

 デビュー作となった「廃用身」(2003年・幻冬社刊)は老人患者の廃用身(回復の見込みのない手足)を次々に切断する医師を主人公とする「超問題作」として話題になったが、テーマは「安楽死」。続く「破裂」では理想の最期「PPP(ぴんぴん、ぽっくり)」を目指す厚生労働省キャリアが登場する。一見シニカルにみえるが、いずれも、きれいごとではすまない高齢者医療の現実を目の当たりにしている人間の実感から生まれたものだという。冷徹な目で「老い」と「死」を見つめる作家・久坂部羊の今後に注目だ。