弥生人の脳を発見、分析に取り組む井上貴央氏(高22回)
昨年11月には母校を訪れて在校生に講演を行いましたが、このほど朝日新聞「ひと」欄(左=2002年8月14日朝日新聞)に取り上げられたので紹介します。
=記事全文=
弥生人の脳を発見した鳥取大学教授 井上貴央さん
弥生時代後期の女性の脳は約1800年の時をへても、木綿豆腐のように軟らかい。国内最古、世界でも2番目クラスの古い脳だ。
始まりは2年前の5月。鳥取県米子市にある医学部の解剖学教室で独り頭蓋骨の内容物をスプーンでかき出していたら、黒い土に交じって白いものがあった。脳、と直感。「大変だ、どうしよう」と、小雨の構内をぬれながら歩き回って頭を冷やした。
鳥取県教育委員会が手がけた数十カ所の遺跡発掘で骨を担当。同県青谷町の青谷上寺地遺跡の骨も、いつも通り、そのまま運ぶように頼んでいた。
脳が腐らずに残ったのは世界でも泥炭地など数カ所。しかも男女3人分。「理由をつかもうと土の抗菌性を調べたがだめでした」
東京と千葉県松戸市立博物館での展示のため、衝撃防止の特殊装置を自作し、トラックに同乗してきた。時間がたつにつれ、じわじわと責任を感じる。「この脳をどう研究したらいいか、脳を悩ましている」
松江市生まれの関西育ち。小学生の時から化石集めに熱中した。地学教室に入りびたり「末は医者か石屋か」といわれながら、鳥取大学時代に書いた初論文が貝化石。化石の微細構造の研究から、電子顕微鏡を専門にした。
改革に揺れる大学の会議に追われる。改革の結果、教室名は、形態解析学といかめしくなった。材料はあるのに、論文を書く時間はない状態が続く。
松戸での展示の会期は18日まで。鳥取まで無事送り届けることが目下、最大の関心事だ。 (文・写真 田辺功)
(2002.9.2)