三丘同窓会

2019年総会ゲスト講演
木本昌秀さん(高28回) 「異常気象と地球温暖化」 〔抄録〕

   

気象災害が相次いだ2018年



 去年(2018年)は大変な気象災害がありました。地震もありましたが。
 西日本豪雨では220人以上の方がお亡くなりになった。その後は猛暑。埼玉県熊谷市では41.1度を記録した。
 熱中症で亡くなる方も多い。テレビなどの報道ではそのつど「○○人搬送された」「○○人亡くなった」と言うが、実際のところは半年くらい経って人口統計を取るときに調べ直さないとわからないんですね。去年は結局、日本全国で1000人以上が亡くなっている。7月、一カ月で、です。まさに災害級です。

 そして台風21号。関空が水浸しになった。強風でタンカーが連絡橋に衝突、橋脚などが破損して関空内の8000人が孤立した。
 皆さん、第2室戸台風って覚えていますか? あのときの高潮は2.4mといわれている。今回は──気象庁ではないが近くで潮位を測っているところがあって、そこの記録によると──3mといわれている。これは大変な数字です。

 台風21号では保険金の支払額が1兆円を超えた。これも数字が出るまでに時間がかかるんですが、1兆円を超えた、とみなされる。みなさん、1兆円のお金ってみたことありますか? 私は5万円以上見たことないですが(笑)
 2011年の東日本大震災では保険金支払額は1兆2000億円くらいだった。地震と台風による風水害を一緒にするのもよくないかもしれないが、「台風1個で東日本大震災に匹敵するほどのレベルだった」といえるのではないか。
 そして、関西が大変だと言ってる間に今度は24号が東京を襲った。


異常気象・極端気象

 私は常々「異常気象」という言い方はやめて「極端気象」と言ったほうがいいんじゃないかというキャンペーンを、たった一人でやっているんです。異常気象というのは30年に1回くらいの珍しい気象をいうんですが、「正常」か「異常」かという意味合いはない。何かおかしいことが起こったわけではない。週刊誌などは「極端気象」では取り上げにくいかもしれませんが、頻度は低くても必ず起こるものなので、欧米での表現のように「極端気象」という方がいい、と考える。
 地球温暖化が進むころにはみなさん、いないと思いますが、孫や子はいるでしょう。

 1890年。というと明治時代ですね。
 そういえば去年は明治維新150年でした。関東のほうでは「明治維新150年じゃなく戊辰戦争150年と言え」と言われたりもしますが、さて、その1890年から100年で、地球の平均気温は0.73度上がっている。だいたい1度。と聞くと、どうってことないと思うかもしれません。昨日は今日より5度高かったとか、よくいうじゃないかと。
 昨日と今日を比べて1度上がったという話と、地球の各地で調査して、全部平均して、春も夏も秋も、すべて計算に入れた結果1度上がったというのは、話がだいぶ違うんです。地域や季節を限ればもっと大きい昇温を経験する。
 産業革命前に比べると、今は「1度上がった」状態。それでも去年の夏はそあの騒ぎ。地球全体で2度も上がるとどうなるか・・・皆さんは生きてないかもしれないけど、これからのことを、ちゃんと考えていかないといけない。

温暖化ではなく都市化のせい?


 こういう話をすると大阪や東京では「地面をアスファルトにしたりビルがたくさん建って、いわゆる『都市化』のせいだろう」と言われる。
 東京、大阪、福岡ではこの100年間で3度近く上がっている。
 「ほらみろ、言ったじゃないか」と言われるかもしれない。
 確かに大都市には都市化の影響がある。
 しかし、日本は海に囲まれている。海には「都市化」はない。海の温度を調べて重ねてみると、ほとんど一緒。海には都市化の影響はないが、なくても100年に1度は上がっているんです。戊辰戦争のころに比べると1度上がっているが、都市部はもっと上がっているともいえる。
 そうか、それは具合が悪い、どうしたらいいのかと政府のえらい人がわれわれ科学者に聞く。それで出すのがIPCC(気候変動に関する政府間パネル)レポートです。
 科学者はまじめだから、逐一調べる。何千ページにもわたるレポートになっています。これはウェブでもみられるようになっています。

 気温が上がっているのは誰のせいか。他でもないわれわれのせいである。温暖化が具合悪いと思うのであれば、われわれの活動を制限するということになる。すると、それなら江戸時代に戻るのか、わらじをはいて歩くのか、刀を差してもいいのかという、いろいろネガティブな話になってくる。 後輩には「木本さん、そういうネガティブな言い方はしないほうがいいですよ。『脱炭素』と言えばいいんです」などと言われます。

地球温暖化で極端気象はもっと増える

 さて、将来どうなるか。
 ボーッと生きてんじゃねえよ!じゃないですが、もしボーっと今のまま続けたら今世紀の終わりには4度くらい上がります。もう大変です。灼熱地獄。
 一方、あらゆる手を使って温暖化を止めようと手を尽くした場合。それでも、産業革命前に比べて2度上がります。
 大変な努力をしてもあと1度くらいは上がる。すると、いろいろ具合の悪いことが起こる。極端気象も増える。

 2008年7月、神戸市の都賀川の親水公園で5人が死亡する水難事故が起きた。都賀川の上流でものすごい雨が降り、10分間で1m以上も水位が上がったためだった。これ以降、「ゲリラ豪雨」という言葉をよく聞くようになった。
 「北海道に梅雨はない」と習ったと思いますが、いまはそれどころではない、北海道にも台風が来ます。
 秋田でもそういう豪雨が起こった。そんなふうにじわじわと変わる。

 空気の温度が上がると飽和水蒸気量も増えるという法則があります。空気中の水分が増える。空気中の水分が落ちてくるのが雨です。空気中の水分が増えると雨も増える。
 地球全体でいうと2%くらいの増加。そういうと、なんだ2%か、・・・と言われるかもしれないが。

 雨というのは、降ってる場所は降っているが、降ってない場所は降ってない。
 そして、降ってない場所のほうが広いし、降ってない日のほうが多い、でしょ?
 何段階か、条件をクリアしないと雨は降ってこない。かつ、上昇気流の問題がある。
 上空は冷たい。飛行機の窓を開けたら「おお、寒!」ということになる・・・20年間言い続けて3回くらいしか笑ってもらってないギャグですが(笑)

 とにかく上空は冷たい。
 上昇気流で空気が持ち上げられると冷える。雲になって、しばらくすると雨になって、落ちてくる。上がったのに下がらないとつじつまがあわない。地上の空気がなくなってしまいますから。質量保存の法則です。
 私、2年ほど前にダイエットに成功しまして、1年で10キロやせたんです。質量保存ダイエットと呼んでいます。「食わないと太らない」と。いま自分は食べたいのかどうかと考えて必要な分だけ・・・まあ、それは置いといて。この法則のおかげで、どこかで上昇気流が起きて雨が降れば、その分、もっと広い面積で下降気流になり、晴れになります。

雨の降り方もひどくなる

 サウジアラビア、イラクなどもともと雨の少ない場所は余計に降らなくなる。オイルマネーでうるおっている国も多いですから「お金を出すから雨を降らせてください」というオファーがわれわれ研究者に来たりしますが、もともと水蒸気の少ないところで雨は降らせられません。私はお断りしました。受けた人は「とりあえず草を植えましょう」と言ってるとかいないとか・・・。
 地球温暖化が起こると特に、雨で極端化が起こる。豪雨や台風の災害は、残念だがもっと多くなり、もっとひどくなる。災害時にはとにかく早く逃げる。避難勧告とかあるが、ひとりひとりにどうぞお逃げ下さいというわけじゃない。最後は自分の判断。

 よく聞かれます。「木本さん、この猛暑は地球温暖化のせいですか?」「雨が降ってるのは地球温暖化のせいですか?」「雪が降ってるのは地球温暖化のせいですか?」「寒いのは地球温暖化のせいですか?」・・・もう何を言ってるのかわからない。
 要するにみなさん、気象がどうなっているかを手っ取り早く知りたいということなんでしょうが、なかなか簡単にはいかない。
 「温暖化の条件で計算したとき」と「温暖化がないという条件で計算したとき」を比較してどれくらい極端気象の頻度が違うか、猛暑のリスクがどれくらい上がるか・・・ということを見ていかないといけない。
 気の短い関西の人は確率の話が嫌いですね。「降水確率が30%? いや、傘をもっていくべきかそうでないか知りたいだけやけど!」と言う。

 「胴元の原理」を理解してほしい。
 うちの近くに船橋の競馬場がある。サンプルの1人1人については負ける人があり、勝つ人がある。胴元は全部あわせたときにもうかればいい。サンプル1人1人の損得ではない。
 リスクや確率の概念は、たくさんのサンプルを扱うものです。
1回1回の極端気象はそのときどきの気象状況で生じますが、それらをたくさん集めた統計には、温暖化のような長期傾向の影響もみられるようになるんです。

 極端気象イベントに対する温暖化の効果と言えば、かさ上げ効果という言い方もあります。去年、熊谷で出た41.1度。1度の温暖化で41.1度が出た。すると、何もせずボーッとして4度上がったとするとどうなるか。44.1度が出てもおかしくない。そのように即答することにしている。西日本豪雨について、あれは温暖化の影響はどのくらいありますかと聞かれることがあるが、「7%かさ上げされている」と答えるようにしている。温暖化が1度で水蒸気は7%増えるから。厳密に計算すると6.5%くらいだったりしますが、だいたいは合っている。温暖化の影響もあるんだ、また、同じような災害は必ず来るんだ、と即答することで次への対策を取ってもらえる。天気予報でも、なるべく早くよい予測を出すことができれば、被害も減らせる。今日は面白おかしく話した部分もありましたが、ちょっとはがんばってますのでご理解よろしく。



■木本 昌秀(きもと まさひで)
東京大学大気海洋研究所 教授。
1980年、京都大学理学部地球物理学科卒業後、気象庁入庁。同庁予報部、気象研究所を経て1994年に東京大学気候システム研究センター助教授、2001年同教授。専門分野は気象学、気候力学。
研究テーマは異常気象や地球温暖化などの気候変動、気候のコンピュータモデルの開発。気象庁異常気象分析検討会会長等を務める。
日本気象学会賞、日本気象学会藤原賞、気象庁長官表彰、日産科学賞など受賞。
 



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