第一部 ゲスト講演・久坂部羊さん(高26回)「医療小説の現実と矛盾」
第一部(午前11時~)はゲスト講演。今年は医師であり作家の高26回・久坂部羊さん (本名=久家義之さん)が講師となり、「医療小説の現実と矛盾」と題して話した。
久坂部さんは医師として活動する傍ら現代医療をテーマとした「廃用身」「破裂」 「無痛」などの作品を次々に発表、2014年には「悪医」で日本医療小説大賞を受賞。 「破裂」「無痛」は昨年相次いでテレビドラマ化されるなど現在注目の作家である。
「僕が作家になろうと思ったのは高校2年の、試験勉強をしていたとき。ちょうどロシア文学を読み始めていたころで、勉強してたら突然、長編小説がぶわーっと浮かんできた。メモ取るひまもない。寝られない。次の日の朝にはもう、自分は小説家として生きていこうと決めていた。そう決めると勉強する気もなくなり・・・精神的にも肉体的にも病んでいましたね」という久坂部さん。その当時、祖父が学生時代に着ていたマントを着た写真を公開。なんとそのマントで学校に通ったそうだ。
「これ・・・世の中のすべてを恨んでるような顔ですよね」で場内大笑い(写真下)。
その後、やはり医師である父親から「まあ、まず医者になって生活安定させてから作家になったらええやん」と言われたこともあって、医師に。だが、小説家になりたいという気持ちは消えず、同人誌に入ったり、新人賞に応募したりする。
「最終候補には残るようになってきたんですが、文藝賞に応募したときは『サウジアラビア・医者・がん。こんなおもしろいテーマでよくこんなにおもしろくない小説が書けるものだ』と山田詠美さんに酷評されました(笑)」という。
2001年には、サウジアラビアなど3カ国で医務官として勤めた経験を書いた「大使館なんかいらない」を久家義之名義で発表。だが、「やっぱり小説を書きたい」と思い続ける。
その後、高齢者医療の現場に入ることになる。当初は、老人医療の分野はなかば引退 した医者が行くところと思っていて「気が進まなかったんですが、行ってみたら、当時40代の自分には新鮮だった」。自分が漠然と、こんなものかと想像していた老人の世界がそうでないと知らされる。満足感・幸福感は必ずしも病気の程度と関係ないとわかる。このころの経験が、その後の作品に大きな影響をおよぼす。2003年、「廃用身」でデビュー。「作家になりたいと思い始めたころから31年かかった。でも、遠回りしてよかったと思ってます」と語った。
講演では、がん、安楽死から「ピンピンコロリ」、臓器移植まで深刻な問題を扱いながら終始笑いが絶えなかった。「メディアには『いつまでも生き生き』とか耳ざわりのいい言葉ばかりあふれているけど、年取ったら不如意が増えて当然。悪いほうへも気持ちを向けておく、危機管理も大切」「患者には知る権利もあるけど、さまざまなことを知っておく義務もある」と語り「私の小説はおもしろいだけでなく、ためになるんですよ(笑)」と締めくくった。