三丘同窓会

亡き息子の考案した入院服を製品化/高19回・大村泉さん夫妻

 脱ぎ着が楽で、入院中も普段のように明るい気分で暮らせる入院服があれば──患者目線で企画、試作品の完成までこぎつけながら34歳の若さで亡くなった息子の思いを受け継いで製品化、販売を始めた夫妻がいる。東北大学名誉教授で経済学者の大村泉さん(高19回)と妻の陽子さんだ。本業とは無縁の世界に飛び込み、「Fudangi(ふだんぎ)」と名付けられたこの入院服の普及に力を注ぐ。

闘病経験を生かして開発、試作品もできていた

河北新報2020年12月10日記事

 大村さんの次男・泰さんは1986年生まれ。仙台で育ったが大学は神戸大学へ。同大学大学院修了後、2011年、職を得て東京へ。だが、翌年4月、顎から口中にかけての激しい痛みに耐えかねて都内の病院に行ったところ急性リンパ性白血病であることが判明する。白血病の中でも悪性度の高いフィラデルフィア染色体陽性型。直ちに入院、8年余りに及ぶ治療の日々が始まった。

 7月、長女がドナーとなり骨髄移植。9月、東北大学病院に転院。再発防止のための治療を受けるが、その過程で重度のGVHD(移植片対宿主病)を発症して長期入院。以後も入退院を繰り返すが、その過程は泉さんらの目から見ても極めて過酷なものであった。だが泰さんは希望を失わず、何か自立の道をと模索を始める。やがて自らの闘病経験を生かした入院服の開発を志すようになる。

 2019年7月、学生時代を過ごし、友人・知人の多い神戸に転居。しかし、感染症にかかって神戸大学病院ICUに緊急入院。これ以降は一進一退、気管挿管も含む厳しい治療が続く。それでも闘病の合間に少しずつ入院服の開発を進める。試作品もでき、自分で着用しては改良を重ねた。

 一般に用いられている入院服は診察や検査に対応しやすいよう、前あきで紐を結ぶタイプが多い。だが、色や柄が限られており、前がはだけやすい。自分で脱ぎ着ができる人でも点滴の途中で着替えるには、そのつど看護師を呼ぶ必要がある。泰さんの開発した入院服はこれらの問題点をクリア、デザインも従来の入院服のイメージを一新するものとなっている。ゆったりしたドルマンスリーブが肩や腕に障害のある人にもやさしい。ポケットもついている。医師や看護師からも絶賛され、退院したらぜひ事業化をと励まされた。

「最後の最後に、息子が伝えてくれた」

 だが、2020年7月、泰さんの体調はいよいよ悪化。泉さんと陽子さんがつきっきりで見守る中、昏睡状態に。
 19日未明、泰さんがふと、着替えをしたそうな動きをしたところ、看護師が素早く着替えさせた。その時、初めて夫妻は試作品の入院服を介助者が着替えさせる場面に立ち会った。ボタンを外して広げると一枚の布のようになる入院服。介助者が患者の体の下にそれを通すことで素早く着替えさせることができる。あっという間に着替えが終わった。わが子が開発した服の素晴らしさを夫妻が実感した瞬間だった。
 「本当に、最後の最後に、息子が伝えてくれた。これはなんとかしてやりたいと思った」と泉さん。
 それから2時間後、泰さんは命を閉じた。

 入院服は友人たちによって「Fudangi」と名付けられた。製品化に向けて泉さん夫妻は会社を立ち上げ、現在特許出願中。ウェブサイトを通して注文を受け付けている。
 「息子が開始し、亡くなる直前まで、完成と普及のためにもがいていた仕事です。患者さんの更衣を楽にして、病室でも普段通りの生活を送れるようにし、看護師さんの激務を緩和する、こんな仕事を、条件が許せば両親が継いでやるのは当然な気がしています。もっとも二人とも全くの素人で、何事もぼつぼつです」と語る泉さん。若い人にも向くおしゃれなデザインだが、最近「105歳の人に贈りたいので」と注文があったとのこと。性別年齢を問わず、多くの人にFudangiは歓迎されそうだ。
1着10500円。ホームページhttps://fudangi.jp
問い合わせはhello@fudangi.jpまで。

(2021.2.6)