三丘同窓会

哲学者・梅原猛を再評価
小川侃さん(高16回)編・梅原猛追悼論文集「梅原日本学の源流」

 京都大学学術出版会から2021年4月「梅原日本学の源流」が出版された。これは2019年1月12日に93歳で亡くなった梅原猛(1925-2019)を追悼するために、ゆかりのある哲学者を中心に執筆された、哲学者・梅原猛を再評価する論文集である。
 企画・編集を務めたのは高16回の小川侃(おがわ・ただし)さん・京都大学名誉教授(写真)。

梅原日本学

 梅原猛は愛知県出身、1948年京都大学文学部哲学科卒、立命館大学教授、京都市立芸術大学学長などを歴任。また国際日本文化研究センターを創設し、初代所長に就任。毎日出版文化賞、大佛次郎賞などを受賞、1992年に文化功労者顕彰、1999年に文化勲章を受章。「神々の流竄(るざん)」「隠された十字架 法隆寺論」「水底の歌 柿本人麿論」の日本の古代三部作等を発表したころから、その日本の文化、歴史、仏教などに対する独自の視線に基づいた研究は「梅原日本学」と呼ばれるようになった。

梅原猛―久野昭―小川侃のつながり

 小川さんは梅原と同じく京都大学哲学科出身。1945年生まれで梅原の20歳年下になる。広島大学総合科学部教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授、人間環境大学学長、甲子園大学学長などを歴任。京都大学名誉教授。『現象のロゴス――構造論的現象学の試み』など、著書や翻訳が多数ある。
 小川さんは広島大学で同じ京都大学哲学科出身の久野昭(くの・あきら=1935-2018)と同僚であり、可愛がられたという。
 久野は梅原が国際日本文化研究センターを立ち上げたとき、梅原の片腕として広島大学からセンターに招かれ、比較哲学としての日本学をリードした。また愛知県碧南(へきなん)市が「哲学たいけん村無我苑」を開村するとき、愛知県出身の梅原に村長を依頼、梅原は名誉村長に、同じく愛知県出身の久野が村長代行になった。小川さんも「哲学たいけん村無我苑」を何度も訪れて講演をしている。
 本書を編集するにあたって小川さんは「久野先生も共同編集者になっていただかなくてはならないのですが」と、2018年に他界した久野に思いをはせている。
 また愛知県岡崎市の人間環境大学の開学にあたっては、梅原らが構想を練り、梅原は長い間理事を務めていた。小川さんは同大学の理事兼2代目学長であり、「梅原先生にはお世話になっていた」という。

「今に生きている哲学が問題」

 梅原の没後、国際日本文化研究センターが中心になって開かれた「お別れの会」には哲学者がほとんどいなかった。小川さんはあのような会では梅原先生は不満足であろうと、哲学者を中心とする論文集を出版して、梅原哲学の意義を再確認することにしたという。
 梅原は「哲学を、西洋の哲学の研究をすることではなく、西洋の哲学から人生や世界をみる目を学び、人生や世界をみる新たな目をつくり、独自の体系的哲学を樹立することであると考えていた」。小川さんも「単なる文献研究に堕した哲学には関心がない。今に生きている哲学が問題だ。哲学が今日の世界でどのようなあり方をするべきかが私の常の関心事である」という。小川さんは1980年のドイツ現象学会での講演で「日本の文化と歴史、日本の仏教を深く理解しながら哲学するもっとも重要な代表」として梅原を指摘し、高く評価した。
 小川さんは梅原日本学の強力さは、梅原猛が哲学を研究し、哲学思想を研究してきた経緯を持つからだと述べている。

高9回金田晉さんも寄稿

 小川さんは「梅原先生を哲学者として評価する人々、同時に梅原先生を高く評価するとともに、その近くにいた人々と梅原哲学について再度考えてみよう」とこの論文集を企画したという。
 本書には、小川さんの「梅原哲学の世界史的意義」をはじめ、京都大学名誉教授で曹洞宗功山寺住職の有福孝岳、天野雅郎・和歌山大学教授、金田晉(かなた・すすむ)東亜大学大学院特任教授・広島大学名誉教授、「評伝梅原猛――悲しみのパトス」の著者やすい・ゆたか、井上克人・関西大学名誉教授、梅原猛の長男で美学者の梅原賢一郎・京都芸術大学客員教授、梅原の立命館時代の教え子で立命館大学名誉教授の日下部吉信が論文を寄せている。
 金田さんは高9回卒で、飛鳥時代から明治時代初めまで約1200年間日本の暦であった太陰太陽暦の研究家として知られ、2019年に三丘アカシアトークカフェで講演していただいた。広島大学で久野や小川さんと同僚であり、数年間国際日本文化研究センターの共同研究チームにも参加、「哲学たいけん村無我苑」でも講演をした。本書には「星座と器――暦法の原イメージ」を寄稿している。
 また本書には2006年に行われ、未発表だった梅原猛と日下部吉信の対論「ハイデガーについて」も収録。最後に碧南市長の禰冝田正信(ねぎた・まさのぶ)が「哲学たいけん村無我苑」の由緒について述べている。

「梅原日本学の源流」
A5判 333ページ 定価4500円(税別) 京都大学学術出版会 発行

(2021.9.17)