三丘同窓会

体験教室「歩行寿命が延びる!セーフティウォーキング」を開催


 11月1日、三丘会館2階ホールにて三丘体験教室「歩行寿命が延びる!セーフティウォーキング」が開催され、37名が参加した。
 今回の講師、土井龍雄さんはアスレチックトレーナーとしてラグビーの大西一平、平尾誠二、騎手の武豊、格闘家の桜庭和志、フェンシングの太田雄貴らトップアスリートを担当してきた。一方で、健康運動指導士として主に高齢者を対象にウォーキングなどの指導にもあたってきた。豊富な経験から編み出されたのが「セーフティウォーキング」だ。

無理をせず歩く
  土井さんは岸和田市職員として1975〜80年の5年間勤めた。高齢者を対象とする体力回復講座の講師として、500人の高齢者を指導したのだ。運動器への負担に配慮した歩き方、歩くための基礎体力づくりを実施した。
 「当時の高齢者というと明治生まれです。明治生まれの人というのはすごい。『最期まで、自分の足で歩く』という目標を持って、一生懸命やってくれた。成果も出ました。10mしか歩けなかった人が800m歩けるようになった。腰や膝の痛みも軽減しました」という。

  最近、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)が問題になっている。
 40歳が曲がり角。加齢に伴い筋肉や骨密度が落ちてくる。すると歩幅が狭くなる。姿勢が悪くなる。歩けない期間が続く──これをいかになくすか、歩けない期間を短くするか。しかし、老年期の人が青年期の人の歩き方を真似しても良くない。無理をせずコンディションを整えながら歩くことが大切なのだ。

なめらかな歩き方を
 なめらかな歩き方は「メカニカルストレス」が小さい歩き方。
 マラソンの世界記録保持者だったケニアのパトリック・マカウ選手は、なめらかな走り方をする人だった。
 2012年、マカウ選手を招いてその強さを探るさまざまな測定が国立スポーツ科学センターで行われた。結果、マカウ選手は床反力(ゆかはんりょく。着地するとき地面から受ける反発力)が日本選手より体重の60%も少ないことがわかった。(マカウ選手は体重×1.6、日本選手は体重×2.2)
 また、血中乳酸値(有酸素運動から無酸素運動に切り替わる臨界値)は驚くほど低い。つまり、有酸素運動機能が高い。床反力を小さくすることでエネルギー消費を節減していたと考えられる。
 そして、高速度カメラで撮影して観察したところ、その走法は「キャッチ走法」といわれるもの。前方に振り出した足が地面をキャッチすることで極めて着地衝撃の小さい走り方をしていたのだ。前方から向かってくる地面を迎え入れる。捕まえにいく。
「ボールをキャッチするとき、どうします? そう、グラブを突き出すのでなく引いて迎え入れるようにしますね。それなんです」
 キャッチ走法では、足腰に加わる衝撃がうんと軽減されるのだ。

キャッチ走法を応用した「キャッチ歩行」
 そこでキャッチ歩行。地面を捕まえにいくように歩くのだ。
 足を突っ張って着地すると着地衝撃が大きい。前方に振り出した足を引き戻しながら、踵の底から足裏全体に、膝を少し曲げて、軟らかく体重を受けるようにすると着地衝撃が小さい(下図)。



歩隔(ほかく)をとって歩く
 歩く時は親指側に重心がのるようにしないと安定しない。
 「一時期、『モデル歩き』がもてはやされました。1本の線の上を歩く歩き方。これは良くない。小指側に重心が来るので不安定になり、捻挫しやすい。4〜5センチくらい(バレーボールのコートのラインの幅くらい)開けて歩くのが良い。そして、まっすぐ、つま先と膝を進行方向に向けて歩いてください。上半身は荷物だと思ってください。荷物をちゃんと載せて、荷崩れしないように運ぶんです」



体操をやってみよう!
 さて、10分間の休憩の後は、歩くために必要なストレッチ体操や筋トレをいくつか、実際にやってみた。

 ■股関節を前後に開くストレッチ
 「これは歩く時の股関節可動域を広げる重要なストレッチです。毎日やってください」



 ■足指関節を柔らかくするストレッチ
 いすに座って片方の靴を脱ぎ、手で足指を曲げたり伸ばしたり、ついでに足裏を指圧する。
 「片足だけやってみてください。はい、それで靴を履いて、足踏みしてみてください。左と右ではっきり違いがあるでしょ?」と言われ、参加者から「確かに違う!」の声。
 「靴をはくまえに片足30秒ずつ、必ずしてください。スポーツ選手はみんなやってます」と。

 ■空気いす
 これは40秒が最低基準で60秒が目標、はじめはできなくても毎日やればできるようになるそうだ。
「無理しないでください。でも、ちょっとしんどいというくらいがいい。ミトコンドリアの活性度が上がります。楽な生活ばかりしていてはだめです」



 ■脚上げの筋トレ(いすに座ったままでも可) 


「筋トレでヒアルロン酸が増えます。わざわざ注射しなくても」だそうだ。

 ■バランス(片足立ち)
 片足を少し地面から浮かせて立ち、そのままの姿勢を保持(写真下)。



「片脚立ちができないということは歩けないということなんです。よちよち歩きになってしまう。最低でも20秒できるようにしてください。最初はできなくても、訓練するとできるようになります。私が指導していたところでは、104歳の人もできるようになりました」

被災地でもウォーキング教室を開いた
 東日本大震災の被災地では仮設住宅に入った後、家にこもったままの人が多く、要介護の人が急増した。これではいけない、と当時神戸製鋼ラグビーチームのトレーナーをしていた土井さんは大西一平さんらが始めたプロジェクト「OVAL HEART JAPAN」に参加。福島、宮城、岩手の3県をまわり400か所でウォーキング教室「歩く人。」を開いた。この活動が評価され、「歩く人。」は平成29年度「運動器の10年・日本賞」(公益財団法人 運動器の10年・日本協会)で最優秀賞を受賞した。


 歩くことがいかに大切かということ、そして訓練次第でかなり高齢の人でもなめらかな歩き方ができるようになることに気づかされた今回の教室。勇気づけられたり安心したりした人も多かったのではないだろうか。

終わった後はいつものように笑顔で記念写真。みなさん、お疲れさまでした!


土井 龍雄(どい たつお)
大阪教育大学卒。アスレチックトレーナー。健康運動指導士。大阪産業大学非常勤講師。三国丘高校校医でもある整形外科医・柳田育久さん(高40回、上の写真で土井さんの左)が院長を務める医療法人貴島会ダイナミックスポーツ医学研究所顧問。著書に「歩行寿命が延びる!セーフティウォーキング」(三省堂)、共著に「歩く人。長生きするには理由がある」(OVAL HEART JAPAN)
(2020.11.10)